書籍

未婚のプロまっしぐら―『姉の結婚(6)』

「本命になりたい」って言い出すのも覚悟がいることで、そこには高いハードルがあるけど、「本命になる」のはまたさらに別の困難が待ち受けている。個人的に今一番面白い作品である西炯子『姉の結婚』の最新刊では、主人公のヨリと、元同級生の真木が、とも…

偏愛が凄い―本田翼「ほんだらけ」

本田翼の「ほんだらけ」を買ってきた。「最初で最後の写真集」ならぬ「1st-Last写真本」という帯のコピーは伊達じゃない。「まんだらけ」をリスペクトしたタイトルの時点で気付くべきだった。ここにいるのは、モデルでも女優でもない。布団にくるまったまま…

写真の役割を改めて考えさせられる―『写実画の凄い世界』

写実画を見たくなったらホキ美術館に行くと良い。日本の現代作家約50人による作品約350点を所収している。だが、ホキ美術館は外房線土気駅からバスということでアクセスが悪く、気軽には足を運べない。となると手元に画集を置いておきたくなる。が、なぜか写…

タイトル最強―『統計学が最強の学問である』

日本語を学ぶ外国人にとって、「は」と「が」の使い分けは意外に難しいらしい。 統計学は最強の学問である 統計学が最強の学問である いずれも間違いではないが、「が」の方が「他ではなく」という一層強調したニュアンスを持っている。では、この本は「統計…

『きゅんっ』きゅんくん×藍田麻央―「本物」の時間

女の子を撮るのは桜を愛でるのと似ている。儚い美しさを永遠のものにしたいという、静かだが狂おしい想いの具現化だ。僕にとっての女の子写真集の最高傑作は、川島小鳥さんが2007年に出した『BABY BABY』。4年の長い時間をかけて一人の女の子を撮り続けた作…

1億円は貯められるか―『投資で一番大切な20の教え』

「1億円は貯められる 月5万円の積立で」と謳っていたプライベートバンクが業務停止命令を受けた。さて、では僕らは1億円まで資産を増やせるのか。そんな上手い話はあるのだろうか。今年のノーベル経済学賞を受賞したファーマやシラーは、この「上手い話はあ…

ジェーン・スー『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』

2003年、酒井順子は『負け犬の遠吠え』で「30代超・子供を持たない未婚女性」を「負け犬」と定義し、子供を持つ既婚女性と対比して、その生き様をポジティブに描いた。人によっては「ポジティブ」どころではなかったかもしれないが、僕にとっては旧来の価値…

一つの結果論だが―「世紀の空売り―世界経済の破綻に賭けた男たち」

「それでも地球は回っている」とコペルニクスが呟いたという証拠はないが、周囲が全て天動説を唱えているときに、一人で地動説を唱えていても社会的に成功することは難しい。だが、周囲が全て「証券化によって債権を分散すればリスクは小さくなる」と唱えて…

京フェス2013のこと

京都SFフェスティバル2013に行ってきた。今年の本会はこんなタイムテーブルだった。 小説とコミュニケーション(円城塔、福永信) SFの中のセックス、セックスの中のSF ~私たちは何をエロいと思うのか(小川一水、掘骨砕三) 近未来都市SFのフロンティ…

そして毎日は続いてく―『3月のライオン(9)』

そして毎日は続いてく 丘を越え僕たちは歩く (「ぼくらが旅に出る理由」小沢健二) 表紙にもあるように、今回は「ひなた巻」。彼女を巡るいじめは一応解消したのだけれど、どのような進路を取るかという問題は、逃げることのできない別の話として、静かに横…

志村貴子『青い花(8)』―ついに完結

志村貴子は、このところ『放浪息子』と『青い花』を立て続けに終わらせた。何か事情があるのか、偶然の符合なのかは分からない。ファンの一人としては、『青い花』が性急な形で終わるようなことがないといいなと願っていたが、この巻を読んでその心配は杞憂…

渋谷直角『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』

サブカルの「サブ」は、サブプライムの「サブ」と同じで「下位」という意味。自分の好きなものが「サブ」と言われるのはどうなんだろう。「サブっていうな」と思うか、それとも「サブ上等」と思うか。はてなで「サブカル女とは」というページがあった。悪意…

桜木紫乃『ホテルローヤル』―地味な世界で地道に生きる人たちの物語

芥川賞作品と比べると直木賞作品は刺激が少ない。そんな風に考えていた時期が私にもありましたー148回受賞作の朝井リョウ『何物』を読んで、その衝撃的なラストに感銘を受けたので、今回の桜木紫乃『ホテルローヤル』も期待をもって読み始めた。釧路のラブホ…

藤野可織『爪と目』―二人称が成功しているとは思えない

あなたはこのエントリーを開く。予想通り長い文章が続いている。読む気がしないので、そっと閉じる―これが二人称文体だ。第149回芥川賞受賞作の藤野可織の『爪と目』は二人称で書かれた作品である。「あなた」とは誰のことなのか、そしてその人を「あなた」…

「ROLa」買ってみた

「nicola」の副編集長を務めた川上浩永が創刊した「ROLa」。ターゲットは「肉食文系女子28歳」だそうで、何人かそんな知人の顔が浮かばないでもない。が、この手の雑誌のターゲット層なんていうものは、広告を取るために無理矢理設定しているような面もある…

京都依存症

「京都」―この二文字にいかに自分が弱いかよく分かった。 雑誌コーナーをぶらついているときに、婦人画報2013年8月号がつい目に留まって買ってしまった。 しかも通常のサイズよりも小ぶりな「トラベル版」というところが決定打だった。 この雑誌を買うだけで…

ケトルvol.13に早見あかり

夏休みにどこに行こうかを考えていた。 書店で雑誌を物色していたら、ケトルvol.13を発見。 表紙は早見あかり。 特集は「島が大好き!」。 これは買うしかない。公式サイト:ケトルVOL.13 - 太田出版佐渡は今回載っていなかった。 でも、伊豆大島や、隠岐諸…

南沢奈央『普通。』

BSプレミアム『お父さんは二度死ぬ』で始まった南沢奈央強化月間(個人的な)。 南沢奈央『普通。』は、約4年前の写真集。ということは、大学生になる前に撮られたもの。フォトグラファーは、長野博文。『普通。』というタイトルそのままに、本当にどこまで…

『風の万里 黎明の空』小野不由美

小野不由美の十二国記シリーズの4作目『風の万里 黎明の空』を読んだ。 人は、自分の悲しみのために涙する。陽子は、慶国の王として玉座に就きながらも役割を果たせず、女王ゆえ信頼を得られぬ己に、苦悩していた。祥瓊は、芳国国王である父が簒奪者に殺さ…

歴史の闇が暴かれる―『新世界より(3)』

いよいよこの世界の光と影の「影」の部分が明らかにされる巻。及川徹の画力はますます高くなっている。冒頭のボノボ的な百合シーンは濃厚に、そして後半の血塗られた歴史はおどろおどろしく。これは続きが待ち遠しい作品。DVD付の限定版が3,800円。通常版は4…

この想いは純愛なのか―『姉の結婚(5)』

前巻では、真木との関係も解消し、川原との結婚話も白紙になったヨリ。さて、その次の展開は―いまや、ヨリも年下の女子から憧れられるくらいの、押しも押されぬ自立した女性である。一方、真木は、相変わらずヨリのことを忘れることができるはずもなく、その…

ちょっと君や僕に似てやしないか―朝井リョウ『何者』

Doesn't have a point of view Knows not where he's going to Isn't he a bit like you and me?自分の意見と言うものがなく 自分がどっちに向っているかも分からない ちょっと君や僕に似てやしないか ("Nowhere man"The Beatles) 朝井リョウ『何者』を読…

UはユウのU―『U』今日マチ子

マンガ・エロティクス・エフが「今日マチ子のエロス」を大特集したのが2010年11月だからもう1年半前になる。その号の表紙にもなった『U』が連載を終えて単行本化された。公式紹介は以下の通り。 ◆「あなたを殺したい」 ―――人間の力を超え、コピーロボットの…

渡辺ペコ『ボーダー(1)』

始まりがあれば終わりがある。終わりがあれば始まりがある-『にこたま』の最終巻と同時に発売されたのが、渡辺ペコの新作『ボーダー』の第1巻。主人公は男子大学生の清田。ガールフレンドの桜井との微妙な距離感とか、憧れを感じる「お姉さん」を追いかけ…

完結―『にこたま(5)』

渡辺ペコの『にこたま』の最終巻。あっちゃん、コーヘー、高野さん、それぞれに選択がある。三者三様。あっちゃんのポジティブな選択も、コーヘーの受け身な選択も、高野さんの強い選択も、それぞれに未来があると感じさせる。正しいかどうかは分からなくて…

『pen』に成海璃子

『pen』の4/15号は「世界で一番好きな場所」特集。公式サイト:http://www.pen-online.jp/feature/6517/表紙を飾るのは成海璃子。「パリと悩んだけどやっぱりこっち」ということで、渋谷を選んでいた。表紙の他に渋谷で撮った写真が4枚くらい掲載されている…

今回も正統派路線―川口春奈『haruna2』

この春高校を卒業した川口春奈の2冊目の写真集のタイトルは『haruna2』。傑作となったデビュー写真集『haruna』を撮った長野博文を再びフォトグラファーとして迎えた。版型も前作と同様で、装丁にも統一感があり、本棚で2冊並べるといい感じ。つまり、キー…

it could have been…川口春奈『haruna』

川口春奈は過去であり、二階堂ふみは未来である。僕らが二階堂ふみに期待するものは、自由奔放な発言であり、型破りな行動であり、斬新なファッションである。一方、僕らが川口春奈に期待するものは、優等生の言動であり、品格のある立ち居振る舞いであり、…

NTR小説として読む―『他人の顔』

NTRは「寝取られ」の略語である。Wikipediaによれば「自分の好きな異性が他の者と性的関係になる状況・そのような状況に性的興奮を覚える嗜好」ということだ。最近の流行でもある。『他人の顔』は、火傷で自分の顔を失った主人公が「他人の顔」をコピーした…

撮る/撮られる―『箱男』

フォトグラファーは、「撮る/撮られる」の関係において、つねに撮る側である。では、「見る/見られる」の関係においてはどうか。見落としがちなことであるが、フォトグラファーは見るだけでない。彼が何かを見ているとき、彼は誰かに見られているのだ。だ…